労働契約法のポイント
労働契約法が平成20年3月1日から施行されます。
就業形態が多様化し、労働者の労働条件が個別に決定・変更されるようになり、個別労働紛争が増えています。この紛争の解決の手段としては、裁判制度のほかに、平成13年から個別労働紛争解決制度が、平成18年から労働審判制度が施行されるなど、手続面での整備はすすんできました。しかし、このような紛争を解決するための労働契約についての民事的なルールをまとめた法律はありませんでした。
このような中で、昨年12月に「労働契約法」が制定され、労働契約についての基本的なルールがわかりやすい形で明らかにされました。労働契約法は、本年3月1日から施行されます。
これにより、紛争が防止され、労働者の保護を図りながら、個別の労働関係が安定することが期待されます。
労働契約の基本ルール
● 労働契約の締結や変更に当たっては、労使の対等の立場における 合意によるのが原則です。(第3条第1項)
● 労働者と使用者は、労働契約の締結や変更に当たっては、均衡を考 慮することが重要です。(第3条第2項)
● 労働者と使用者は、労働契約の締結や変更に当たっては、仕事と生 活の調和に配慮することが重要です。(第3条第3項)
● 労働者と使用者は、信義に従い誠実に行動しなければならず、権利 を濫用してはなりません。(第3条第4項・第5項)
※ 労働契約は、使用者と労働者がお互いに守らなければならないものです。あとでトラブルになったりしないように、契約の内容をハッキリさせておくことが大切です。
● 使用者は、労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにしましょう。(第4条第1項)
● 労働者と使用者は、労働契約の内容(有期労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面で確認しましょう。(第4条第2項)
※ このほか、有期労働契約については、「有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関 する基準」において、使用者は
@ 契約期間満了後の更新の有無等を明示
A 3回以上更新された契約や1年を超えて継続勤務している労働者の契約を更新しな い場合、契約期間満了の30日前までに雇止めを予告
B 労働者の求めに応じ、雇止めの理由を明示
C 契約更新の場合、契約期間をできる限り長くするよう配慮 することとされています。
● 使用者は、労働者の生命や身体などの安全が確保されるように配慮しましょう。(第5条)
労働契約を結ぶ場合には・・・
※労働者と使用者が合意すれば、労働契約は成立します。事業場に就業規則がある場合で、就業規則で定める労働条件が労働者の労働条件になる場合は、次のような場合です。
● 労働者と使用者が、「労働すること」「賃金を支払うこと」について合意すると、労働契約が成立します。(第6条)
※事業場に就業規則(労働条件などを定めた規則)がある場合には、次のようになります。
● 労働者と使用者が労働契約を結ぶ場合に、使用者が
@ 合理的な内容の就業規則を
A 労働者に周知させていた(労働者がいつでも見られる状態にしていた)
場合には、就業規則で定める労働条件が、労働者の労働条件になります。(第7条本文)
● 労働者と使用者が、就業規則とは違う内容の労働条件を個別に合意していた場合には、その合意していた内容が、労働者の労働条件になります。(第7条ただし書)
● 労働者と使用者が個別に合意していた労働条件が、就業規則を下回っている場合には、労働者の労働条件は、就業規則の内容まで引き上がります。(第12条)
● 法令や労働協約に反する就業規則は、労働者の労働条件にはなりません。(第13条)
労働契約を変える場合には・・・
※労働者が働いていく中では、賃金や労働時間などの労働条件が変わることも少なくありません。労働条件の変更をめぐってトラブルにならないように、使用者と労働者で十分に話し合うことが大切です。
● 労働者と使用者が合意すれば、労働契約を変更できます。(第8条)
● 使用者が一方的に就業規則を変更しても、労働者の不利益に労働条件を変更することはできません。(第9条)
● 使用者が、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合には、次のことが必要です。(第10条)
@ その変更が、以下の事情などに照らして合理的であること。
・労働者の受ける不利益の程度
・労働条件の変更の必要性
・変更後の就業規則の内容の相当性
・労働組合等との交渉の状況
A 労働者に変更後の就業規則を周知させること。
《check !》就業規則の変更については、裁判で次のような考え方が示されています。
・新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは、原則として許されないが、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由として、その適用を拒否することは許されない。(秋北バス事件最高裁判決)
・賃金のような重要な労働条件の変更について、高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合には、その効力を生ずる。(大曲市農業協同組合事件最高裁判決)
・定年を延長する代わりに給与が減額された場合において、その合理性の有無の判断に当たっては、@就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、A使用者側の変更の必要性の内容・程度、B変更後の就業規則の内容自体の相当性、C代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、D労働組合等との交渉の経緯、E他の労働組合又は他の従業員の対応、F同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。(第四銀行事件最高裁判決)
・賃金体系の変更により大幅な不利益を生じさせる場合には、一方的に不利益を受ける労働者について不利益性を緩和するなどの経過措置を設けることによる適切な救済を併せ図るべきであり、それがないままに一部の労働者に大きな不利益のみを受忍させることに
は、相当性がないものというほかはない。一部の労働者が被る不利益性の程度や内容を勘案すると、賃金面における変更の合理性を判断する際に労働組合の同意を大きな考慮要素と評価することは相当ではないというべきである。(みちのく銀行事件最高裁判決)
労働契約を終了する場合などには・・・
※ 出向、懲戒や解雇については、労働者に与える影響が大きいことからトラブルになることが少なくありませんので、紛争とならないように気をつけましょう。
● 権利濫用と認められる出向命令は、無効となります。(第14条)
● 権利濫用と認められる懲戒は、無効となります。(第15条)
● 客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利を濫用したものとして無効となります。(第16条)
有期労働契約を結ぶ場合には・・・
※例えば、1年の契約期間を定めたパートタイム労働者など有期労働契約を結ぶ場合には、契約の終了場面における紛争が見られることから、あとでトラブルになったりしないように、次のことに気をつけましょう。
● 使用者は、やむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間が満了するまで、労働者を解雇することができません。(第17条第1項)
● 使用者は、有期労働契約によって労働者を雇い入れる目的に照らして、契約期間を必要以上に細切れにしないよう配慮しなければなりません。(第17条第2項)